前回、重症心身障害児向け多機能型で黒字化できない事業所の共通点は、「構造を設計していないこと」だと述べました。
では、構造を設計するとは何を指すのでしょうか。
理念を掲げることでも、単位を知ることでもありません。
構造とは、報酬制度・定員区分・人件費・稼働率・時間軸を一体で組み上げることです。
ここを分解していきます。
構造① 報酬単位を前提にする
重症心身障害児向けの報酬は、定員区分によって大きく変わります。
- 5〜7人:2,131単位
- 8〜10人:1,347単位
- 11人以上:850単位
この差は小さくありません。
「定員を増やせば売上が伸びる」という一般的な感覚は、この分野では通用しません。区分を跨いだ瞬間、単位が下がります。
構造設計とは、まずこの制度を前提にすることです。
構造② 人件費率を前提にする
重症心身障害児分野は、人件費比率が高い領域です。
当事業所では、賞与・法定福利費を含めて最大約60%。実績では50%台で推移しています。
ここで重要なのは、「人件費を下げる」ではなく、「この比率を前提に設計する」という思考です。
支援密度を落とすことはできません。
つまり、人件費は“結果”であり、自由変数ではないのです。
構造③ 損益分岐点を明確にする
定員5名モデルの損益分岐点は3.5人です。
70%稼働で±0になります。
しかし、この数字は単なる計算結果ではありません。
報酬単位と人件費率、固定費を前提に逆算した結果です。
分岐点を知らずに経営することは、
地図を持たずに航海することと同じです。
構造④ 時間軸を組み込む
開設初月から3.5人に到達するわけではありません。
当事業所では黒字化まで約6カ月を要しました。
構造設計には、月次の損益だけでなく、
「立ち上がり期間をどう耐えるか」という時間軸が含まれます。
ここを設計していないと、理論上黒字でも資金が尽きます。
構造⑤ 継続モデルを作る
多機能型は0歳から18歳までが対象です。
放課後等デイサービス単独型の12年間に対し、理論上18年間の母数があります。
さらに、当事業所では実際に18歳まで在籍しているケースが継続しています。
これは偶然ではありません。
継続が起こる構造を作っているからです。
継続があれば、毎年ゼロから埋め直す必要はありません。
ここが、稼働安定の根幹です。
「構造」は努力では作れない
よく誤解されるのは、努力や根性で黒字化できると思われることです。
しかし重症心身障害児分野では、
・単位は制度で決まる
・人件費は構造的に高い
・定員区分で単価が下がる
という制約があります。
努力は必要ですが、構造がなければ努力は消耗になります。
なぜ“構造”を明文化しないのか
ここまで読んで、
「では具体的にどう組むのか」と思われるかもしれません。
しかし、構造は一律ではありません。
地域人口、物件条件、職員構成、加算状況によって最適解は変わります。
テンプレートは存在しません。
だからこそ、表面の数字だけを真似ても、
同じ結果にはなりません。
結論
重症心身障害児向け多機能型の経営は、
理念でも根性でもなく、構造で決まります。
報酬単位、人件費率、定員区分、損益分岐点、時間軸、継続設計。
これらを一体で組み上げたとき、初めて黒字化が現実になります。
構造を知らずに始めるか、
構造を設計して始めるか。
その差が、6カ月後の結果を分けます。

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