重症心身障害児を対象とした多機能型(児童発達支援+放課後等デイサービス)の収支について、損益分岐点は3.5人です。本稿では、その背景にある「対象児童の母数」「継続構造」「固定費構造」という三つの観点から整理します。
前提は、定員5名、利用率100%超、欠席加算以外はすべて取得、人件費は売上の約60%前後、黒字化まで約6カ月という実績モデルです。この条件下で、なぜ3.5人で分岐するのかを構造的に解説します。
単独型と多機能型の対象年齢の差
単独型(放課後等デイサービスのみ)の対象は6歳から18歳までです。年齢幅は12年間です。
一方、多機能型は児童発達支援を含むため、0歳から18歳までが対象となります。年齢幅は18年間です。
18年÷12年=1.5倍。理論上、対象児童の母数は多機能型の方が1.5倍広いことになります。この差は単なる数字ではなく、契約獲得の確率に直結します。定員5名モデルでは、この母数の差が稼働安定性を左右します。
損益分岐点3.5人の意味
定員5名のうち3.5人は70%稼働にあたります。この水準で損益が±0となる設計です。
人件費は売上の約60%前後で推移しています。つまり、売上が減っても人件費は比例してすぐには下げられません。1名減少すると、売上は20%落ちますが、人件費は同じ水準で発生します。
その結果、人件費率は実質的に上昇し、固定費吸収が難しくなります。だからこそ、平均4名以上の稼働を維持することが安定黒字の条件になります。
継続構造が安定を生む
当事業所では、利用開始後、18歳まで在籍しているケースが継続しています。未就学から高校卒業まで一貫支援が可能な体制です。
これは制度上の理論ではなく、実際の在籍実績です。利用が長期化することで、毎年ゼロから利用者を埋める必要がありません。既存利用者が基盤となり、その上に新規契約が積み上がります。
この継続構造が、損益分岐点3.5人を安定的に上回る状態を生み出しています。
単独型が厳しくなる理由
放課後等デイサービス単独型は、対象年齢が12年間に限定されます。学年の偏りや人口減少の影響を直接受けやすい構造です。
さらに、児童発達支援からの内部移行がないため、常に外部から新規契約を獲得し続けなければなりません。人件費率約60%という前提が変わらない以上、売上総額が小さくなれば分岐点は相対的に上昇します。
多機能型は、制度構造そのものが営業リスクを分散する設計になっています。
黒字化まで6カ月という現実
理論上の分岐点が3.5人であっても、開設初月から到達するわけではありません。本モデルでは黒字化まで約6カ月を要しました。
これは契約が積み上がるまでの時間が必要だからです。したがって、損益分岐点は月次の理論値だけでなく、到達までの運転資金設計まで含めて考える必要があります。
多機能型は対象母数が広いため、この到達確率を高める構造になっています。
結論
重症心身障害児向け多機能型は、0歳から18歳までを対象とするため、放課後等デイサービス単独型と比べて理論上の対象母数が1.5倍です。
さらに、実際に18歳まで在籍している実績があり、継続利用が収支安定を支えています。定員5名、損益分岐点3.5人というモデルは、偶然ではなく、制度設計と経営設計を前提に構築された結果です。
多機能型は形態の選択ではありません。収支を安定させるための戦略的設計です。

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